AIエージェント

医療特化型AIエージェント導入 Vol.0:なぜ今AIエージェントなのか

現在、世界の医療分野は、医療従事者の過重労働、急速な高齢化、医療費の増大という三つの大きな課題に直面しています。こうした問題は国際的にも共通しているが、日本においては特に深刻です。世界でも最も速いペースで進む高齢化により、医療従事者の不足は年々深刻化しており、地域によっては必要な医療サービスの確保自体が難しくなっているケースも報告されています。

はじめに

▼日本の人口1,000人あたりの臨床医師数は2.4人で、OECD加盟38か国中では32位、G7では最下位となっている

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出典元:医療関連データの国際比較 -OECD Health Statistics 2021 および OECD レポートより-(日本医師会総合政策研究機構、2022年)

https://www.jmari.med.or.jp/wp-content/uploads/2022/03/WP464.pdf

こうした背景から、医療従事者を支援し、業務効率を大幅に向上させる次世代テクノロジーとして注目されているのが AIエージェント です。本稿では、生成AIとの違いを明確にしながら、医療におけるAIエージェントの可能性と導入プロセスについて解説します。

生成AIとAIエージェントの違い

まず理解していただきたいのは、生成AIとAIエージェントは似て非なるものである、という点です。

生成AIとは

生成AI(Generative AI)は、大量の学習データをもとにテキストや画像などを生成する技術です。すでに医療業界でも、説明資料や報告書のドラフト作成などに利用が始まっており、「作る」ことに強みを持っています。
しかし、生成AIはあくまで“コンテンツ生成”が中心であり、現場で求められる「一連の業務遂行」には限界があります。

AIエージェントとは

一方、AIエージェントは 目標達成に向けて自律的に行動できる存在 です。状況を判断し、計画を立て、ツールやシステムを操作し、タスクを完了させる能力を持ちます。

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例えば「2型糖尿病患者への生活指導を行う」というタスクにおいて、生成AIは一般的なアドバイス文章を出力するだけです。しかしAIエージェントは、以下のような一連の処理を自動で実行できます:

  • 電子カルテから病歴や検査データを抽出
  • 最新の診療ガイドラインと照合
  • 個別患者に合わせたアドバイスを作成
  • 医師に確認を依頼
  • 適切なチャネルを通じて患者へ送信
  • 電子カルテに記録を更新

このようにAIエージェントは、単なる生成を超え、「タスクの遂行」と「自己改善」を繰り返す存在であり、臨床現場や事務業務において大きな変革をもたらす可能性を秘めています。

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医療現場における応用可能性

医療の業務は大きく分けて2つのカテゴリーに分類されます。

  1. タイプ1:患者と直接関わる業務
    診察・説明・カウンセリング・処方など、専門職の判断を伴う領域。
  2. タイプ2:患者と直接関わらない業務
    電子カルテ入力、検査データ整理、レポート作成、スケジュール調整、医薬品管理などの定型業務。

現在、多くの医療従事者がタイプ2業務に多大な時間を割かれており、本来の診療や患者ケアに注力できない状況が続いています。AIエージェントはこの「タイプ2」を大幅に代替し、さらに「タイプ1」の一部を補助することで、医療現場に新しいワークフローをもたらします。

特に日本の医療制度や地域構造の制約を考えると、AIエージェントは不可欠な支援技術となり得ます。これまでの実績の中で、日本の医療・ヘルスケア現場が直面する課題に真正面から向き合ってきた。その知見を活かし、AIエージェントの応用先として、以下の7つのドメインを特定している:①医療、②地域ヘルスケア、③臨床試験、④臨床検査、⑤薬局、⑥介護、⑦保険。

以下に、各分野における代表的なAIエージェントのユースケースを紹介する。

① 医療DX(診療支援・医師の働き方改革):診察前情報の統合と臨床サマリー作成支援

問診票、既往歴、検査結果、処方履歴などをAIエージェントが自動で集約・整理。医師が診察前に把握すべき要点を短時間で理解できる臨床サマリーレポートを作成し、情報収集時間を削減、患者対応に集中できる環境を提供。

② ヘルスケアDX(予防医療・健康管理):パーソナライズされた健康支援

ウェアラブルデバイスや医療機関の生体データをAIが統合・分析し、個々の生活習慣や疾患リスクに応じた健康アドバイスを提供。リスク予兆の早期検知による予防医療の推進に貢献。

③ 臨床試験DX:被験者スクリーニング自動化

治験前の適合患者抽出は膨大な作業だが、AIエージェントが条件と医療記録を照合して自動スクリーニング。実施期間の短縮と精度向上を実現。

④ 臨床検査DX:検査結果の要約と次ステップの提案

過去データと照合し異常値をハイライト。次に必要な検査や診察手順を示すことで、医師の意思決定をサポート。

⑤ 薬局DX:処方薬チェックとリスク警告

電子処方箋と病歴を照合し、薬物相互作用、重複投与、アレルギーリスクをAIが検出。薬剤師にリアルタイム警告を発信し、ヒューマンエラーを未然に防ぐ。

⑥ 介護DX:ケアプランの自動作成支援

利用者の身体状況、基礎疾患、生活環境のデータをもとに、AIが個別ニーズに最適化されたケアプランを提案。ケアマネージャーの負荷軽減とサービス品質向上に寄与。

⑦ 保険DX(生命保険):新契約のリスク評価支援

健康診断結果や告知情報をAIが分析し、保険引受可否やリスクレベルを自動判定。判断根拠も説明可能な形式で示し、審査業務の迅速化と透明性向上を支援。

これらの領域における導入は、単なる効率化に留まらず、医療の質と安全性の向上にも直結します。

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世界での利用ケースの例

AIエージェント開発のバリューチェーン

AIエージェントを単なる「アイデア」から、医療現場で本当に役立つ「相棒」へと育てるには、一貫した開発プロセスが不可欠です。私たちOmi Japanがこれまでの経験から導き出した、AIエージェント開発のロードマップをご紹介します。

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  1. LLM基盤モデルの選定

プロジェクトの成否を分ける最初の決断です。オープンソースのモデルを選ぶか、それとも商用モデルで安定性を確保するか。これは、プロジェクトの目的や予算に応じて最適な選択をしなければなりません。

  1. 環境構築

医療データを扱う上で、セキュリティは最重要課題です。クラウドで柔軟性と拡張性を優先するか、オンプレミスでデータを厳格に管理するか。プロジェクトの要件に合わせた最適な環境を構築します。

  1. ファインチューニングとRAG設計

一般的なLLMでは、医療分野の専門的な質問には答えられません。そこで、医療データやガイドラインを用いてモデルをファインチューニングし、精度を高めることが必要です。さらにRAG(Retrieval-Augmented Generation)を設計することで、信頼性の高い情報源に基づいた回答を生成できるようになります。

  1. 外部システムとの連携

AIエージェントが真価を発揮するには、既存のシステムとスムーズに連携する必要があります。電子カルテ、LIS、PHRなど、現場で使われているシステムと統合することで、AIはデータにアクセスし、より的確なサポートを提供できるようになります。

  1. 開発を加速させる:ローコード開発の活用

PoC(概念実証)や実運用を早期に開始するため、私たちはローコード開発を積極的に活用することをお勧めします。これにより、素早くプロトタイプを作成し、現場からのフィードバックを迅速に反映させることが可能になります。

  1. 運用・保守

AIエージェントは、リリースして終わりではありません。実際の運用データに基づいて継続的な改善を行い、パフォーマンスを監視し続けることが重要です。これにより、AIは常に進化し、現場のニーズに最適化された状態を保つことができます。

未来への展望と導入のハードル

AIエージェントは、世界中の医療現場が直面する深刻な課題に対する現実的な解決策として注目されています。実際、2025年に開催されたHIMSS(米国医療情報システム学会)の国際カンファレンスでは、議論の中心が「生成AI」から「AIエージェント」へと移行していることが、その潮流を如実に示しています。

しかし一方で、導入にはいくつかのハードルが存在します。たとえば、コストの不透明さ、セキュリティ対策、既存システムとの統合、説明可能性(Explainability)、処理速度や応答性など、多角的な視点での検討が求められます。

本ブログでは、開発者の視点からこれらの課題を詳しく解説するシリーズとして、「医療特化型AIエージェント導入の主なハードル」を取り上げていきます。各回のテーマは以下の通りです。

  • Vol.1 コストの不透明さ
  • Vol.2 セキュリティ対応
  • Vol.3 システム連携
  • Vol.4 説明可能性(Explainability)
  • Vol.5 処理速度・応答性

これらを順次解説しながら、日本の医療現場におけるAIエージェント活用の道筋を明らかにしていく予定です。

おわりに

AIエージェントは、もはや未来のテクノロジーではなく、すでに現場導入が進みつつある実践的なソリューションです。日本の医療が直面する深刻な課題を解決し、持続可能な医療体制を築くうえで、その役割はますます重要になるでしょう。

次回のVol.1では、最も多くの経営層が関心を寄せる「導入コストの不透明さ」について掘り下げて解説します。

なお、Omi Japanでは、これまで350件以上の医療システム開発実績と、AIエージェントを活用した医療DXプロジェクト支援の経験を活かし、「医療特化型AIエージェントPoCキャンペーン」をご提供しています。最短2ヶ月・399万円から、御社の業務フローに合わせてカスタマイズされたPoC構築が可能です。

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